世界・水と暮らし · 水道と安全な飲料水
水道があっても「安全な飲み水」が使えない?世界の水統計で分かること
水道があるのに安全な飲み水を使えないのはなぜでしょうか。JMPの水源・距離・利用可能性・水質の条件と、2024年を対象にした世界推計を、架空の家庭例で読み解きます。
事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。
蛇口の有無だけでは、水サービスの水準は決まらない
世界の水問題を扱うニュースでは、「水道が普及した」という報告と「安全な飲み水が不足している」という報告が並ぶ。矛盾しているように感じるが、両者が調べている条件は同じではない。水をくめる場所があること、その水を必要なときに使えること、汚染されていないことは、別々に確かめる必要がある。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の飲料水指標では、改善された水源を利用し、その水源が敷地内にあり、必要なときに利用でき、糞便由来・優先的な化学汚染がないという条件を満たすものを「安全に管理された飲料水サービス」と呼ぶ。蛇口の数だけでなく、水の使いやすさと品質まで含めて見るための指標だ。[1][2]
「水道がある」と「安全に使える」は、何が違うのか
家の敷地に蛇口が設置されていても、断水が長く続けば、飲みたいときに水が得られない。反対に、遠くの保護された井戸から水を運んでいる家庭では、汚染を防ぐ設備があっても、毎日の水くみに多くの時間を使う可能性がある。水は目の前にあるか、必要な量を得られるか、安全性を確かめられるかで、生活への負担が変わる。
WHOとUNICEFが共同で行うJMP(給水・衛生合同モニタリング計画)は、水サービスを段階的に分類している。最初の分かれ目が「改善された水源」かどうかだ。これには配管による給水、保護された井戸や湧水、雨水、適切な容器などで運ばれた水も含まれる。水道管だけを数える指標ではない。[2]
次に、水を得るのにかかる時間を調べる。改善された水源を使い、水くみの往復が待ち時間を含めて30分以下なら「基本的なサービス」に分類される。30分を超える場合は「限定的なサービス」だ。一方、改善されていない水源や、川・湖などの地表水を直接利用する状態は、別の段階として区別される。[2]
さらに最上位の「安全に管理されたサービス」になるには、改善された水源であるだけでなく、敷地内にあること、必要なときに使えること、汚染されていないことという条件が加わる。つまり、基本的な水サービスを利用していることと、安全に管理された水サービスを利用していることは同義ではないのである。[1][2]
ここでは、集計表の区分の重なりにも注意したい。「少なくとも基本的なサービス」という集計には、安全に管理されたサービスの利用者も含まれる。一方、五段階を積み上げるグラフの「基本的なサービス」は、安全管理の水準に届かない人の区分として表示される。同じ「基本的」という言葉でも、最上位を含む合計か、最上位を除いた一段階かを確認しなければ、人数を二重に足してしまう。[2]
四つの家庭を比べると、指標の意味が見える
次の四家庭は、指標の考え方を説明するための架空の例である。特定の国の実態や検査値を示すものではない。
| 架空の家庭 | 水を得る状況 | 統計で注目する条件 |
|---|---|---|
| A | 家の蛇口はあるが、断水が続き必要なとき使えない | 敷地内であっても利用可能性が不足 |
| B | 保護された共同水源へ往復20分、待ち時間を含む | 改善水源・30分以下でも敷地内ではない |
| C | 改善水源が敷地内にあり、必要時利用でき、汚染がないと確認される | 三条件がそろえば安全管理の分類候補 |
| D | 川の水を直接生活の飲料水として使う | 地表水を利用する別区分 |
Aが安全な水サービスの最上位に入らない理由は、蛇口が存在するかどうかではなく、水が必要なとき使えない点だ。Bでは水質だけで分類を決められず、敷地まで水を運ぶ時間が問題になる。Cでは見た目が透明という主観的印象だけでなく、汚染の条件を確認する。Dでは水源そのものの種類が分類を左右する。このように分類するから、同じ「水が利用できる世帯」という表現でも、発表資料によって数字が変わり得る。[2]
例えばBの水くみが往復25分から35分に延びたとする。改善水源の種類が変わっていなくても、基本的なサービスの30分基準を越えるため、サービス段階の評価が変わる。災害で道路が使えなくなったり行列が長くなったりすることが、生活上の水へのアクセスを悪くするという意味が、指標にも表れる。
2024年の世界の数字は何を示しているか
WHO・UNICEFが2025年8月に公表した報告書は、2000~2024年の各国データを用いて世界の家庭の給水・衛生を比較した。報告によれば、2024年に「安全に管理された飲料水サービス」を利用していた人は世界人口の74%と推計された。一方、約21億人がこの水準を満たしていなかった。これは「約21億人に水が一滴もない」という意味ではない。[1]
未達の内訳として報告された2024年推計は、基本的なサービスにとどまる人約14億人、限定的なサービス約2億8700万人、改善されていない水源約3億200万人、地表水の直接利用約1億600万人である。各値は丸められた推計で、合計は約20億9500万人となり、見出しの「約21億人」と整合する。ここで14億人という人びとは、改善された水源を利用していても最上位の三条件の一部を満たしていない人びとを含む。[1]
数字を使うときは対象年に注意したい。「2025年の報告で21億人」と言うことはできるが、これは2025年の実測人口を意味するのではなく、2024年の世界人口を対象とする推計だ。報告の発行年と統計の対象年を同じものとして扱わない。また、世界全体の推計を単一の国にそのまま当てはめることもできない。[1]
報告は2015年から2024年にかけて最上位のサービス利用率が68%から74%へ増え、同期間に約9億6100万人が新たに利用できるようになったとする。この増加が大きく見える一方で、なお多くの人が取り残されている。世界平均だけでは、都市と農村、所得水準の違う地域の格差が埋もれるため、実際の改善策を考えるには分類ごとの数字と地域の状況を照らす必要がある。[1]
水源があっても「必要なときに使えない」仕組み
飲み水の利用可能性は、配管が通っているかどうかだけで決まらない。取水する施設、ポンプ、電力、浄水・消毒の設備、配水管、修理部品や運転要員が働くことで水は届けられる。途中のどこかに問題が生じると、家には設備があっても水が出にくくなる可能性がある。
例えば架空の町で、ポンプの運転に使う電力が不安定になり、給水が日中の数時間に限られたとする。蛇口が各家庭にあっても、水を保存する容器が必要になり、夜間に十分使えない世帯が現れる。これを「水道のない町」と呼ぶのは正確ではないが、常時安定したサービスと同じ水準とも言えない。[2]
また災害時には取水源が濁ったり、配管が傷んだりする場合がある。ただし、濁りがあれば必ず危険な微生物が検出される、透明なら必ず安全という単純な関係にはできない。飲料水の品質は、その地域の基準と適切な検査によって確認される必要がある。WHOは飲料水の品質を守るため、汚染が起きてから対処するだけでなく、供給過程のリスクを管理し、監視・規制を整えることを重視している。[3]
ここで「安全な飲み水が不足」という統計を、日本国内の個別家庭への飲用指示と混同しないでほしい。JMPは国際比較のためのサービス分類であり、自宅の水の品質に疑問がある場合には自治体や水道事業者の検査・注意情報を確認することが必要だ。
遠くから水を運ぶ負担は、誰にかかるのか
家から離れた水源を使う場合、水を運ぶための時間が発生する。往復の時間には歩く時間だけでなく、順番待ちの時間も含める。仮に一回の水くみが往復35分で一日に複数回必要なら、ほかの家事、就学、仕事に使える時間が減り得る。これは誰もが同じ回数の水くみを行うという意味ではなく、時間配分への負担を理解するための架空例だ。
UNICEFのJMP解説は、水くみの負担が多くの地域で女性や女児に偏っていること、道路へのアクセス、居住地域、障害の有無などによって給水サービスに格差があることを説明する。[2] ここで「女性だから必ず水を運ぶ」「国全体が同じ慣習だ」と断定してはいけない。家庭内の役割や社会環境は地域によって異なり、調査対象と比較方法を見なければならない。
水源の近さを改善することは、飲み水を確保するだけでなく、日々の時間を取り戻すことにもつながり得る。しかし設備を新設しただけで水質と供給の安定性が自動的に確保されるわけではない。地下水の状態、維持費、故障時の修理、適切な運営などが伴って初めて、継続して使えるサービスになる。[2][3]
「改良された水源」でも、汚染の確認は別になる
改善された水源という分類は、水源のつくりに注目した概念であり、個々の給水地点でその日検査した水質の合格証ではない。保護された井戸や配管給水が分類上「改善水源」であっても、糞便由来の汚染や優先的な化学物質の問題がないかは追加の情報が必要だ。[2]
反対に、改善されていない水源の利用者すべてについて、一定の病気が発生するとも言えない。統計分類はサービス環境の違いを示すもので、個人の感染や健康状態を診断するための指標ではない。公衆衛生上のリスクを考えるには、水の品質だけでなく衛生設備や手洗い環境などの情報も重要になる。[3]
国際統計を読むときには、特定の国の「水道普及率」が何を指すかも確認したい。配管への接続率、改善水源の利用率、基本的なサービス以上の利用率、安全に管理されたサービスの利用率は、名前が似ていても判定条件が異なり、資料によっては分母も違う。一つを別の値で置き換えると、他国との比較や政策評価を誤る可能性がある。
世界平均が上がっても、地域によって改善の速さが違う
同じ2025年版のJMP報告は、2024年の安全に管理された飲料水サービスの利用率を、農村部60%、都市部83%と推計した。[1] これは世界全体を農村・都市で集計した割合であり、どの国でも必ず23ポイントの差があるという意味ではない。農村の水源は長い配管や分散した集落への供給が課題になり得る一方、都市には人口集中による設備需要や供給の不安定さが生じ得る。どの問題が実際に大きいかは地域別の調査が必要である。
世界平均を読む際には、比率が改善しても未達人数の変化が同じ方向にならない場合があることにも注意したい。例えば架空の国で人口が100万人から120万人に増え、安全な水サービスの利用率が60%から65%へ上がれば、利用者数は60万人から78万人へ増える。一方、未達人数は40万人から42万人へ増える。これは算術例であり実際の国別推計ではない。分母である人口が変わるので、割合が改善したという情報だけで、支援が必要な人数まで減ったと決められない。
また「農村」と「都市」の定義が国によって一様とは限らないため、行政上の区域変更や統計の改定も比較に影響し得る。JMPの分類に従った世界集計と、一つの国が国内政策に使う水道事業の接続率を同じ尺度として扱わず、両方の数字の目的を確かめることが重要だ。[2]
読者がグラフや寄付案内で確認したいこと
国際機関や支援団体の案内では「水へのアクセス」「安全な水」「清潔な水」「給水設備」という表現が入り混じることがある。数字の意味を確かめたいときは、まず何を数えているのかを探す。世帯の割合なのか、人口の割合なのか、設備の数なのかによって結論が違う。次に、2024年の推計か、直近に採水して検査した結果かを分ける。
例えば「10村に井戸をつくった」という事業報告は、施設の建設実績を示している。しかし、その後の水質検査、故障率、住民が水をくむ時間まで示しているとは限らない。「井戸ができたから安全に管理された水サービスの利用人口が同じ人数増えた」という単純な推測は避けるべきだ。事業を評価するなら、利用者が実際にどの設備を使い、必要なときに水が得られ、品質が保たれているかという段階まで調べる必要がある。[2][3]
寄付先や国際協力を選ぶ際にも、建設数だけでなく修理・維持管理・水質監視などの継続的な仕組みを確認すれば、事業が何を目指しているかが具体的に分かる。これは個別団体の良し悪しを決める判定法ではなく、説明されている成果がサービスのどの条件に当たるのかを読み解く方法である。
国際統計を使って政策を考えるときの限界
JMPの推計は、国勢調査、世帯調査、行政データなどを使い、国際的に比較できる定義へ整えたものだ。すべての国のすべての家庭を同じ日に訪問して測った実測全数ではない。UNICEFは推計の作成に使う資料の種類と調和の方法を説明している。[2]
2025年報告によると、安全に管理された水サービスについての推計に用いる情報は160の国・地域で得られ、対象は世界人口の約72%に相当する。利用可能な資料の範囲や推計手法が更新されれば、過去の数字も比較し直す必要がある。特定の国の順位を語る場合は、欠測や推計期間、分類方法を確認せずに「今年改善した」と判断しないほうがよい。[1]
データが示す格差は、施設不足だけが問題だと決めるためのものではない。家の敷地に水源があっても断水が続くなら運用の安定性、水源から遠いならアクセス、汚染があれば水質管理が優先課題となる。どこに投資するかは、国際指標だけでなく現地の原因調査、住民のニーズ、維持管理の能力と合わせて考える必要がある。[2][3]
ニュースで「安全な水を使えない21億人」と見かけたら、飲料水の最上位のサービス基準に未達という意味であることを思い出したい。水源の種類、距離と時間、利用できる頻度、水質の四つを分けて確かめると、水道設備があっても水問題が残る理由が見えてくる。 それは誰かの暮らしを不便と決めつける指標ではなく、改善すべきサービスの条件を探すためのものさしなのだ。
SOURCES & CONTEXT
出典・一次資料
- WHO/UNICEF JMP『Progress on household drinking-water, sanitation and hygiene 2000–2024: Special focus on inequalities』2025年8月26日公表、対象期間2000~2024年、特に飲料水サービスと不平等の概説・2024年推計。確認日:2026年10月16日。。報告書本体Highlights vi(PDF8ページ目)を独立照合。概要ページ間のbasic内訳表記差は本体に従う
- UNICEF DATA「Access to drinking water」、節「Current status」「Notes on the data」「Definitions of drinking water services in households」。ページの正確な最終更新日:確認できず。確認日:2026年10月16日。
- WHO『Guidelines for drinking-water quality: fourth edition incorporating the first, second and third addenda』(2026年)、Overviewの取水域から消費者までのリスク管理・水安全計画・独立監視。個別の家庭の飲用可否を判定しない(2026年10月16日確認)
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