◎世界の見取り図THE WORLD IN CONTEXT

日本・海外旅行 · 医薬品の持込み

海外旅行にいつもの薬を持って行ける?処方薬・市販薬で異なる確認手順

日本で処方・購入した薬でも、そのまま海外へ持参できるとは限りません。成分・数量・許可・証明書、日本の出入国と渡航先・経由地の規則を確認する順番を説明します。

世界の見取り図 編集部公開 資料確認・更新 13 分で読めます

事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。

01

薬の成分・数量と、国ごとの条件を確認する

出張や旅行の準備中、毎日飲む処方薬や、頭痛・鼻炎に備えて買った市販薬をスーツケースに入れてよいのか迷うことがある。日本で合法的に購入・処方された薬でも、海外へそのまま持ち込めるとは限らない。答えは、薬の成分と数量、渡航先・経由地の法律、日本からの持出し規制の組合せによって変わる。 処方せんや英語の診断書があればすべて許可されるわけでもない。厚生労働省は、海外渡航時には各国制度を確認し、原包装、薬の説明資料、必要量を準備するよう案内している[1]。

ここでは「何を調べれば持参の可否を判断できるか」を中心に、日本を出発する人の準備の順番、実際にルールが違う英国の例、乗継・帰国時に見落としやすい点を説明する。医薬品を飲む・やめる・替えるといった治療判断を旅行情報だけで決める記事ではない。

02

最初に調べるのは薬の日本語の商品名ではなく成分

海外の空港職員が、国内ではよく知られた製品名を理解できるとは限らない。国によって同じ成分の販売名が異なり、国内で市販されている薬が別の国では処方薬だったり、成分そのものが規制対象だったりする。米疾病対策センター(CDC)の渡航医療資料も、渡航先で禁止・数量制限の対象となる成分があり、日本や米国で合法の処方薬でも持込みが認められない場合があると説明している[2]。

そこで荷造りの前に、薬の成分名(可能なら一般名)、含有量、剤形、服用目的、旅行期間、予定する総数量を一覧にする。成分量の「mg」は一錠当たりなのか一日分なのかを区別する。例えば「一錠5mgを一日に二錠、14日間」の必要量は28錠であって、単に「5mgを14日間」という情報では税関で総数量を説明できない。これは数量計算のための架空例で、持込可能量を示した数字ではない。

複数成分が入った風邪薬・鼻炎薬にも注意したい。製品が一箱だから一種類の成分とみなすのではなく、配合される各成分を確認する。CDCの資料では、一部の鎮静薬、刺激薬、鼻づまりの薬などが渡航先によって規制され得る例として挙げられている[2]。特定の製品がある国で合法かどうかを、その例示だけから決めてはいけない。

03

規則を確認する場所は三つある

一つ目は日本を出国するときの持出し規制である。二つ目は渡航先へ入国するときの持込み条件。三つ目は帰国時の日本への持込みである。途中で別の国の入国審査・税関を通るなら、経由国の条件も加わる。飛行機の乗り継ぎだけだから常に確認不要とはいえない。CDCは、税関を通る経由地の薬の規則も確認対象としている[2]。

日本の厚生労働省は、日本から出る・帰るときにも手続きが必要な医療用麻薬や向精神薬があることを明示している[1]。医療用麻薬や医薬品に当たる覚醒剤原料は、本人の治療目的で携帯する場合でも、規制区分に応じて地方厚生局への事前申請・許可が必要となる。麻薬取締部の公式案内では、麻薬と覚醒剤原料は申請書式も異なるとしている[3]。

一方、医療用の向精神薬については、日本の出入国で同じ申請方法を機械的に当てはめてはいけない。厚労省の説明は、本人が治療目的で携帯できる場合と、成分別の総量や注射剤かどうかに応じて証明書類の携行が必要な場合を分けている[3]。さらに麻薬取締部は、注射剤の向精神薬、または用法から見て1か月分以上の注射剤以外の向精神薬を日本へ持ち込む場合には、別に輸入確認証の手続きが必要と案内している。処方せん写しの携行だけで全手続きが終わるとは限らない[3]。日本側の条件を満たすことは、渡航先での許可を保証しない。 逆も同じである。

04

処方薬なら必ず持ち込める、という誤解

医師が処方していることは、薬が本人の治療に必要であることを説明する重要な根拠になる。しかし各国の薬物規制は、その薬が医療に使用されるかどうかと、国内への輸入を認めるかどうかを別に判断する場合がある。CDCは、現地法上は禁止の薬、許可を条件とする薬、数量や剤形に制限のある薬を区別するよう促している[2]。

例えば英国政府の案内では、規制薬を含む医薬品を英国へ携帯する際、処方を受けた本人の薬であると示せなければ国境で没収され得る。英国Home Officeの別の詳細案内は、一定の規制区分に該当する薬について訪問者の個人持込み方針と証拠書類を説明しているが、対象区分や居住者かどうかによって条件が変わる[4][5]。英国の条件を「欧州全体」や「旅行者なら三か月分まで世界共通」と読み替えることはできない。

日本の「処方薬」「市販薬」という販売区分を、外国の法令区分と一致すると考えるのも危険だ。確認すべきは商品名より成分、目的より輸入規制、そして規制品目に入るかどうかである。法律上の判断が曖昧なら、渡航先の政府窓口・在日大使館等に薬の一般名と数量を示して照会する。

05

書類は何を、どのように用意するか

厚労省は、病気・症状と服用中の薬を説明できる文書を用意し、国によっては英文診断書などの指定文書が求められると案内している。また薬は病院・薬局から受け取った元の包装を保って持参するよう勧めている[1]。分包された薬や粉薬については、識別しにくさが問題になるため、渡航前に薬剤師へ相談する余地がある。

実務上は、処方せんの写し、薬剤情報提供文書、医師による英文等の証明、元容器の成分・用量表示、現地政府が指定した許可書を混同しないことが重要だ。英語の証明書は説明資料にはなるが、法令上の「輸入許可」とは別物である。必要な書類の言語や発行日、発行者の資格も渡航先が指定する場合がある。

例として、二週間の渡航に処方薬を持参する人がいるとする。薬が一般的に流通している種類であっても、当局へ「一般名、錠剤・注射剤などの剤形、合計量、旅行日程、所持する書類」をセットで問い合わせれば、単なる「この薬はいいですか」という質問より条件を確かめやすい。ただし国によって回答方法や拘束力は異なるため、メールの返信を正式な許可と同一視してはいけない。

06

「必要な分だけ持つ」は無制限の安全基準ではない

長期出張で薬が不足するのを恐れて、多めに携行したくなる人もいる。しかし厚労省は必要と考えられる数量を超える携帯を避けるよう案内し、国によって滞在期間と別に持込数量の上限がある点を指摘している[1]。一方、航空便の欠航に備えて医療上必要な備えがある場合もある。その量は医師・薬剤師と相談し、法的な持込条件と両立できるかを調べる必要がある。

注意すべきは、箱の「○日分」という表示と規制上の合計量が必ず同じ意味ではないことだ。薬の一日量が変更されたり、複数種類が同じ規制物質を含んだりすると、合計量の計算が変わる可能性がある。特に規制薬物については、英語で用量の説明ができても許可要件を満たさないことがある。許可の有無を確認せずに数量だけ調整することは、解決策にならない。

また、元の包装から別のケースに全部移せば携帯しやすくなるが、成分が識別できなくなるという不利益がある。CDCも元のラベル付き容器を維持することを推奨している[2]。複数の薬を毎日一包化している場合は、自己判断で服用方法を変えるのではなく、医療者に旅行中の保管・識別方法を相談したい。

07

機内持込みと税関での持込みは違う判断

航空会社の「機内に持ち込めるか」は、安全検査・手荷物のサイズ・液体物の取扱いなどに関わる。一方、国境の税関や薬物規制当局が判断するのは、その国に持ち込む行為の適法性である。保安検査を通過したことは現地への輸入許可の証明ではない。

CDCは、旅先に必要な薬を預け荷物ではなく手荷物で管理することを勧めている。預けた荷物の紛失や遅延を避け、問われた際にその場で本人が説明できる利点がある[2]。ただし注射器、冷却剤、液体の薬などは保安検査と航空会社の規定を別途確認する。過去の「液体物100mL」の一般案内をすべての医療用品へ一律に当てはめず、旅程ごとの公式ルールを確かめる。

薬が温度管理を必要とする場合、航空便の長時間移動で有効性が保てるかは製品ごとの条件による。保冷剤を使っても温度が適切とは限らない。保管条件について添付文書や薬剤師の説明を基にし、医薬品の種類を示さずに「保冷バッグなら問題ない」とは判断しない。

08

乗継地・長期滞在・現地で薬が足りなくなった場合

旅行者が見落としやすいのは、入国先だけでなく旅程の変更によって確認すべき国が増えることだ。往路では空港内の乗継で済む予定でも、運休などで急きょ経由国の税関を通る可能性がある。その場合にまで適法な持込みを保証する方法は、通常の航空券だけでは分からない。経由地の入国可能性と薬の規制について、必要に応じて当局へ確かめておくとよい。

長期滞在で現地の処方が必要になるケースでは、日本の処方せんがそのまま海外の薬局で有効とは限らない。現地の医療機関で診察や新たな処方が必要な場合がある。英国Home Officeは、規制薬を含む薬を海外から郵送してもらうことには厳しい制約があると案内している[5]。日本にいる家族へ「同じ薬を郵便で送って」と頼む前に、現地法と医療の手続を確認する必要がある。

服薬を中断したり、海外の似た名前の商品に自己判断で切り替えたりしないことも重要だ。名前の近い薬が同じ成分・用量とは限らない。持込みができない薬を使っている場合、旅行日程や行き先の再検討も含めて早めに医師に相談する。この記事では特定の治療薬の代替を指示しない。

09

旅行の三つの場面で判断がどう変わるか

週末旅行にいつもの市販薬を持つ人。 日本の薬局で買ったからといって、渡航先に同じ販売区分があるとは限らない。箱の表側の商品名だけでなく、裏の成分表で配合成分を確認する。「市販のかぜ薬」という用途で照会すると、規制の対象成分が曖昧になる。医薬品に当たるか、どの物質が含まれるか、現地でどの数量が許されるかという順番で調べれば、一般論でなく自身の持ち物に合った確認ができる。

長期間の留学で毎日服用する処方薬がある人。 一か月程度の旅行と半年の留学では、用意したい総量が違う。しかし現地で半年分の携行が一度に許されるとは限らない。英国の規制薬についての個人持込み方針には三か月分などの条件があるが、その条件は対象となる薬の区分と旅行者の居住状況で異なる[5]。長期の滞在資格があっても薬の輸入条件とは別だ。現地の医療機関を利用する方法も含め、出発前に医師と渡航先の担当窓口へ相談する必要がある。

複数国を周遊する人。 一か国目では認められた薬が、二か国目でも合法とは限らない。国境ごとに入国する人、携帯量、許可証の有効期間を考え直す必要がある。最初の国で買い足した薬が日本への帰国時に規制対象になる可能性もある。旅程表に国名・滞在日・薬の成分・問い合わせ先を対応づけると、どの国の確認が残っているか見落としにくい。

ここで重要なのは、個人の事情で必要な薬の量を減らすよう勧めることではない。治療に必要な量は医師と相談し、出入国条件を満たす携帯方法、現地調達の可否、渡航計画を並行して検討する。旅行先の一般向け案内が薬ごとの許可を明示していない場合、情報がないことを「制限なし」と解釈しないことが、具体的な準備につながる。

10

公式サイトが古い・国別情報がないとき

渡航先の大使館ホームページで製品名を検索しても情報が出ない場合がある。禁止一覧に名前が載っていないことは、輸入を許可する積極的な証明にはならない。日本語の商品名ではなく一般名・成分名で調べ、制度を管理する機関の問い合わせ先を確かめたい。CDCは、国際麻薬統制委員会の国別情報についても、各国からの報告時期によって古い場合があると指摘している[2]。二次的な旅行ブログの日付と法改正の時点も別のものだ。

旅行直前に重要な手続きが未確定と分かったら、許可を得ずに持参する選択を正当化しない。現地当局への照会結果や許可条件を確保し、治療に必要な薬については医師と旅程・代替の医療体制を協議する。情報が不足する場合は判断を保留することも、実用的な準備の一部である。

11

出発前に使える確認の順番

①品名と成分の特定。 持参する全商品の一般名、配合成分、剤形、一日の使用量、総数量を確認する。薬剤師から説明を受けた場合は記録を残す。

②日本側の手続。 厚労省・麻薬取締部で麻薬、向精神薬、医薬品に当たる覚醒剤原料などの区分を調べる。規制品目なら、許可と書類携行の違い、出国・帰国それぞれの手続を確認する。

③渡航先・経由地の法令。 現地政府、在日大使館、必要に応じて税関や保健当局の案内で、成分ごとの禁止・許可・書類・数量・翻訳要件を確認する。国別一覧は入口として使い、最終的な運用窓口の確認を省かない。

④運搬・保管。 原包装、処方せん写し、指定文書、必要な量、温度管理、機内手荷物のルールを整える。書類は電池切れや通信障害でも提示できるよう、必要に応じて紙でも用意する。

⑤旅程変更時の再確認。 渡航先、経由地、滞在日数、服用量や薬剤が変われば条件も見直す。最初に確認した国の情報が別の旅程に自動で適用できるとは限らない。

海外旅行へ薬を持参できるかは、「薬を飲む理由が正当か」だけでは決まらない。薬の成分と規制区分、携帯する数量、日本の出入国と渡航先・経由地の条件、必要書類がそろって初めて判断できる。 荷造りの最後に確認するより、旅行の計画段階で調べる方が、必要な医療と安全な移動の両方を守りやすい。

旅先で薬が足りなくなり、現地の医療機関を利用する場合の費用と保険の違いは、関連記事「海外旅行中に病院へ行ったら医療費はどうなる?[6]」で整理している。この記事で説明した医薬品の持込規制とは別の問題として確かめたい。

SOURCES & CONTEXT

出典・一次資料

  1. 厚生労働省「海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて」(公表・更新日表示未確認、2026年10月17日閲覧)
  2. 米国CDC『Yellow Book 2026』「Traveling with Prohibited or Restricted Medications」(2025年4月23日掲載、2026年10月17日閲覧)
  3. 厚生労働省麻薬取締部「麻薬・覚醒剤原料などを携帯して日本を出入国する方へ」(ページ更新日未確認、2026年10月17日閲覧)
  4. 英国政府「Take medicine in or out of the UK」(ページ更新日未確認、2026年10月17日閲覧)
  5. 英国Home Office「Travelling with medicine containing controlled drugs」(初公表2019年8月16日、最終更新2023年4月11日、2026年10月17日閲覧)
  6. 関連記事:海外旅行中に病院へ行ったら医療費はどうなる?

公的文書、国連資料、選挙機関などの一次資料を優先します。政府資料はその政府の立場を示すこともあり、出典があることだけで中立とみなさず、事実と解釈を分けて伝えます。

WORLD IN CONTEXT記事一覧へ
記事一覧へ