世界・教育 · 非就学と修了率
学校に行けない子どもは2億7300万人に増加、それでも卒業率は上昇――UNESCOの2026年報告を解く
UNESCOの2026年報告は、2024年の非就学人口2億7300万人と長期的な修了率の改善を示します。人数と割合、年齢集団と対象年、留年と修了の関係を分け、二つの数字が両立する理由を解説します。
事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。
非就学人数と修了率は矛盾するのか
世界では学校に通えない子どもや若者がなお2億7,300万人いる。一方で、学校を修了する割合は長い目で見れば大きく上昇しているという。同じ教育の状況を示す数字なのに、一方は悪化、一方は改善に見える。この二つの報道は矛盾しているのだろうか。また、どちらの数字を使えば「教育が進歩した」と判断できるのだろう。
矛盾ではない。学校へ行っていない人数と、一定の教育段階を修了する割合は、測る対象、分母、時点、学校の中での進み方が違うからだ。 UNESCOの『2026 Global Education Monitoring Report』は、学校にいない子ども・青少年・若者が2024年に2億7,300万人に達し、2015年以降の状況は停滞または悪化したと記す。同時に、2000年以降は就学者数も修了率も大幅に改善したと説明する。さらに、留年の減少が二つの指標の動きを違わせる要因の一つだと指摘する。数字をただ並べるのではなく、学校へ入ることと学びを終えることを別々に追うと、なぜ両立するのかが見えてくる。[1][3]
「2億7300万人」はどんな人たちの数なのか
この数字は、2026年のある日の世界の学校にいない人を、その瞬間にすべて数えたものではない。UNESCOが2026年に公表した報告が示す、2024年を対象とする推計だ。また、「子ども」の日常語から小学生だけを連想しやすいが、指標には初等教育の年齢層だけでなく、下級中等・上級中等段階に相当する青少年や若者も含む。対象年齢と学校段階を確認せず、「2億7,300万人の小学生」と説明するのは正しくない。[1][5]
報告によれば、世界では子ども・青少年・若者のおよそ6人に1人が学校教育の外に置かれている。この分母は世界の全人口でも、世界の成人全員でもない。教育段階に対応する年齢層の人たちを基礎とする。資料は2015年から学校にいない人の割合を減らす進展が鈍化し、対象人口は7年連続で増え、2015年比でおよそ3%増加したとする。ここで「増加した人数」と「増加率」を混同しないことが大切だ。全世界の同年齢人口が変化していれば、学校に通わない率が同じでも人数の動きは違ってくる。[1][5]
さらに、紛争の影響を受ける国では統計が不足しやすい。UNESCOは、強い紛争影響を受ける10か国のデータ不足を人道支援側の追加情報で補うと、学校にいない人数が少なくとも1,300万人過少に数えられている可能性を指摘する。だからといって2億7,300万人へ機械的に1,300万人を足して世界の唯一の「公式確定値」として発表するのも慎重でなければならない。追加推計には異なる情報源と前提があるため、もとの系列にどう反映させるかを確認する必要がある。少なくとも、学校に通えない人を正確に把握すること自体が難しい場所があると理解したい。[1]
それなのに「卒業率」が上がったとはどういうことか
UNESCOは2000年と2024年を比べ、初等教育の修了率が77%から88%、下級中等教育が60%から78%、上級中等教育が37%から61%に上昇したと示す。これらの修了率は、各教育段階の最終学年に入る標準年齢を3~5歳上回る年齢集団全体を分母に、その最終学年を終えた人の割合を測る。在学者や入学者だけを分母にした割合ではなく、ある日に教室へ座っている人数そのものでもない。入学したか、途中で学校を離れたか、学年を何年かけて進んだかを考える必要がある。ここでも「卒業率」という日常表現には、制度上の修了と学校行事としての卒業式を混同しない注意がいる。[1][4][5]
小学校の修了率が88%だからといって、残り12%がすべて今まさに学校へ入学していないとはいえない。まだ在学中で学年が遅れている人、途中で学校を離れた人など、事情はさまざまだ。逆に、いま学校に在籍していても将来必ず修了できるとは限らない。一人の子どもにとって「学校の門をくぐれたこと」と「学ぶ課程を最後まで終えたこと」は連続していても異なる結果だ。この差を理解しないと、政策の効果を評価する際に重要な途中のつまずきを見落としてしまう。
2000年以降の就学者の増加も大きい。報告によれば、2024年には初等・中等教育に約14億人が在学し、2000年より3億2,700万人増えた。同じ期間に就学前教育の在学者も増加している。学校に行かない人数が大きいからといって、過去25年間に学校教育がほとんど拡大しなかったとはいえない。この時間幅の違いが重要だ。2000年からの長期改善と、2015年以降の足踏みが同時に成立しているのである。[1]
留年が減ると「入学する割合」が変わらなくても修了率は上がり得る
UNESCO報告は、この二つの数字が別の方向へ動く理由として学年の繰り返し、つまり留年率の低下に注目している。2000年からの長期比較で、初等教育の留年率は62%、下級中等教育では38%低下したと説明されている。これは「留年する児童の62%が2026年に一斉に卒業した」という意味ではない。指標の変化幅に関する国際集計だ。なぜこれが修了に関係するのかを順番に考えよう。[1]
同じ学年を繰り返す子が多いと、その子が一定の学校段階を終えるまでに必要な年数は長くなる。必要な教室・教員・教材の利用が長期化し、本人にとっても学習意欲や家計負担が問題になる場合がある。留年が減って予定の進級が進みやすくなれば、学校へ入る新しい子どもの割合を大きく増やせなくても、一定年齢までに修了する子どもの割合は改善し得る。一方で、学校の外にいる子どもを新たに学校へ戻せなければ、非就学率は停滞することがある。
説明のための架空例を考える。100人の学年集団に対して毎年学校へ入る人の割合が変わらないとしても、以前は多くの生徒が学年を繰り返し、一定年齢までに修了できなかったとする。後年、教師の支援や進級管理が改善して留年が減れば、同じ人数が入学していても期限内に修了する割合が増えることがある。ただし、単純に全員を進級させたから学力が伸びるとは限らない。進級・修了の数字が改善した理由は、実際に学習できるようになったのか、評価・進級制度が変わったのかまで別に確かめる必要がある。これは統計の関係を理解する仮想例であり、ある国の制度改革の効果を実証した事例ではない。
早く卒業できるかと、最終的に卒業できるかも違う
卒業率の解釈には、何歳までに修了したかという時間の問題もある。UNESCOが「適時の修了」と呼ぶ指標は、最終学年に入る標準年齢から3~5年後の年齢集団を対象としており、標準年齢どおりの卒業だけを指すわけではない。それより遅い年齢まで含めた「最終的な修了」とは区別される。下級中等教育について、両者の差は世界全体で約4ポイント、低所得国では約9ポイントとされる。低所得国では入学が遅れたり留年が続いたりして、同じ段階を終えるのに余分な年数がかかる子どもがいる。この違いを無視すると、遅れて学校を終えた人の努力も、学校制度が抱える負担も正しく把握できない。[1][4]
たとえば「卒業率が高くなった」という一文だけでは、どれほどの子どもが同じ年齢で卒業したのか、何年も遅れて卒業したのかは分からない。遅れても学びを終えられることには大きな意味がある一方、長期間学び続けるためには家族と社会の支援が必要だ。年齢に合った学習機会を確保すること、就学した後に学びからこぼれ落ちないこと、遅れた人が再び学べることは別々の政策課題なのである。
この考え方は、中途退学率、学年反復、就学率、卒業率、学力といった複数の数字を同時に見る理由になる。学力が身についていなければ修了証を得ただけで教育の目標を達成したとすることはできない。他方、成績試験の点数が高い少数の学校があっても、地域の子どもがそもそも通学できなければ教育機会の平等は実現していない。学力の国際比較を主題とするPISAとは違い、この報告の中心は誰が教育に参加できるか、どの時点まで学び続けられるかというアクセスと公平性だ。
進歩している国と、取り残される国が混在する
世界平均だけでは各国の経緯を説明できない。UNESCOは2000年以降、ある年齢層の非就学率を80%以上減らした国の例を挙げる。初等段階ではマダガスカルやトーゴ、より上の年齢層ではモロッコやベトナム、ジョージアやトルコなどが紹介されている。これは全段階でどの国が世界一かを決めた順位ではなく、対象年齢層と改善の程度を示す報告の事例だ。どの国でも同じ制度を採用すれば同じ結果になると立証したものでもない。[1][2]
出発点をそろえて国の進歩を比べるという提案もある。UNESCOは2000〜2024年にメキシコの非就学率低下がエルサルバドルを20ポイント超上回ったなど、近い出発点の国同士を比較している。なぜ差が生じたかを考えるには、学校への移動手段、家庭の所得、教師、平和と安全、政府の長期計画などを見る必要がある。「教育省が頑張ったから」だけでも、「経済成長したから」だけでも説明しきれない。報告は教育政策に加え、女性の就業や移住、紛争終結後の安定など、教育以外の環境変化も長期の就学拡大に関わり得ると示している。[1][2]
実際に学校へ通えない理由は多様だ。学校が遠すぎる場合もあれば、家計が交通費や教材費を捻出できない場合、障害のある子どもを受け入れる環境が整っていない場合、紛争や避難生活で通学の安全が確保できない場合もある。だから、一つの補助金や法律だけを世界中へ同じ形で配れば問題が解決するとはいえない。地域の条件と子どもが直面している障壁を知ることが必要になる。
政策の「採択」と子どもが通える「実施」を分ける
教育制度の改善に向けた国際的な努力がなかったわけではない。UNESCOによると、調査対象国のうち12年間の義務教育を法律上定めている国の割合は、1998年の8%から2023年には26%へ上昇した。また、障害のある子どもを含む教育への法制度の対応も長期的に広がっている。ただし、法律があれば必ず学校や教師が足りるとは限らない。学校の建物や教室、教員、教材、給食、交通、学びを支える人員など、実際に利用できる環境へ変えていく必要がある。[1][2]
UNESCOは不利な立場の子どもに資源を重点的に配分する政策を重視するが、新たな指標では、その仕組みが十分強い国は10か国中1か国に満たないと報告している。この評価も、それぞれの国の政策目的や運用の実態を一つの点数で完全に評価したものではない。政策がどんな対象を優先し、どのくらいの規模で届く設計かを整理した一つの尺度である。それでも、学校に入れることを制度上認めるだけでなく、実際に通うための障壁を減らす必要があることを示している。[1][2]
支援には、住まいと学校の距離を縮める交通手段、家庭の負担を減らす費用支援、障害に応じた設備、学校給食など多様な方法がある。どの方法を優先するかは課題の内容によって変わる。貧困で通えない子どもに教材だけを配っても交通費が払えなければ通学できない場合がある。通学手段があっても、教育言語を理解できない子には別の支援が必要になる。重要なのは施策の名前の多さではなく、誰のどの障壁を取り除くかという因果のつながりを確認することだ。
統計を読み違えやすい三つの落とし穴
第一は、人数と割合の取り違えである。非就学の人口が増えても、対象人口がもっと大きく増えていれば割合は別の動きをする。逆の場合もある。第二は、参加と修了を同じにする誤解だ。学校へ入った人数が増えても、全員が定められた段階を修了するとは限らない。第三は、全世界の平均をある国の実情のように扱うことだ。世界平均が停滞しても大幅に改善している地域はあり得る。逆に全世界の平均が改善していても、紛争の中で教育の機会を失う人はいる。
さらに「就学前教育の参加率75%」という数字にも落とし穴があるとUNESCOは指摘する。5歳児の教育参加を測るとき、一部の国ではすでに小学校に入っている5歳児が含まれるため、これをそのまま幼稚園などへの就学前教育経験と見なすと実態が違ってくる。国際統計の指標名から日常語の意味を推測するだけでなく、何を実際に数えたかを確認しなければならない。教育段階の区切りや入学年齢が国によって違うことも比較を難しくする。[1]
2030年を目標とする国際的な教育政策についても、「達成したか、失敗したか」という一つの二択だけでは分からない。UNESCOは、現在の改善速度が続く場合、上級中等教育の修了率95%に達するのは2105年になり得るという分析を示す。ただしこれは将来が必ずその年になるという予言ではなく、観測されたペースを延長した場合の見通しだ。政策を変え、資源配分を工夫し、障害を取り除けば、進み方が変わる可能性はある。一方、長く続く紛争などが進行を妨げる可能性もある。[1]
教育ニュースを読むときに、結局どの数字を見るべきか
学校にいない人数は、教育への入口が閉ざされている問題の大きさを示す。就学率は、ある年齢層がどの程度教育に参加しているかを示す。修了率は、学ぶ過程の出口まで進める人がどの程度いるかを示す。留年・中途退学・学習到達度は、入口と出口の間に何が起きたかを理解する補助になる。政策の成果を判断するなら、最初に「誰について」「いつの」「どの学校段階を」「どの指標で」測ったかをそろえることだ。
2026年のUNESCO報告の核心は、世界には依然として学校に入れない人が多数いる一方、入れた子どもが教育課程を終える条件を改善してきた歴史もある、という二つの事実だ。学校に行かない人が増えていることと、卒業率が上がっていることは、分母と教育過程が異なるため同時に起こる。 どちらか一つを選んで希望ある数字か悲観的な数字かと争うより、学校の外の人をどう迎え、学校の中の人がどう学び終えられるようにするかを区別することが、読者にも政策にも役立つ。
SOURCES & CONTEXT
出典・一次資料
- UNESCO GEM Report Team「2026 GEM Report: Access and equity — Countdown to 2030」オンライン報告要約
- UNESCO GEM Report「What does the 2026 GEM Report say about access and equity in education?」2026年9月7日、9月18日更新
- UNESCO「2026 Global Education Monitoring Report: Access and equity. Countdown to 2030」刊行案内、2026年4月3日、6月22日更新
- UIS「SDG indicator metadata 4.1.2: Completion rate」2022年3月31日更新、定義・計算式・限界
- UNESCO GEM Report「Monitoring education in the SDGs」2026年版、Target 4.1
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