世界・自然と国際協力 · 生物多様性COP17
2026年の生物多様性COP17は何を点検する?「保護30%」の約束と実行の遅れを読む
2026年10月の生物多様性COP17は何を点検するのでしょうか。保全30%、国別目標、資金と有害な補助金の約束を一次資料で確認し、計画の提出と実施・成果の違いを説明します。
事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。
目標・計画・自然の回復を分けて読む
2026年10月19日から30日まで、アルメニアの首都エレバンで、生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が予定されている。会議の直前、10月15日に国連の条約事務局が公表した報告は、各国の目標づくりが進んでいる一方、その目標に向かう実際の進み方は十分ではないと警告した。「陸と海の30%を守る」という世界的な約束があっても、その数字が各国でそのまま実現しているわけではない。
ここでの核心は、国際会議で目標に賛成すること、国別の計画を提出すること、実際に自然の減少を抑えることは、三つの異なる段階だという点である。何がどの段階で進んだのかを区別しなければ、各国の取組を過大評価したり、反対にすべてが無意味だと決めつけたりする。COP17は温室効果ガスの削減を中心とする国連気候変動会議COP31とも別の会議である。この記事では、2026年10月15日までに公表された条約事務局の資料を基に、生物多様性の国際目標と今回の会議で確かめるべき争点を整理する。本文の基準日は2026年10月18日で、会議の決定を先取りしない。 [1]
なぜ『もう一つのCOP』があるのか
COPはConference of the Parties、すなわち条約の締約国が参加する会議を指す言葉であり、一つの国際会議だけの固有名詞ではない。国連気候変動枠組条約にも生物多様性条約にも、それぞれCOPがある。2026年に話題となる生物多様性COP17は、自然に生息する動植物やその生息環境、遺伝的な多様性などを守り、利用の仕方を持続可能にするための国際的な取組を話し合う場だ。気候変動と生物多様性の損失は関連するが、会議の法的な基盤、参加する交渉体制、個々の目標は同一ではない。
生物多様性の減少には、森林や湿地を別の土地利用へ変えること、持続可能でない捕獲や採取、汚染、外来種の持込み、気候変動など、複数の圧力が関わる。条約事務局の10月15日付報道資料も、土地・海洋利用の変化、野生生物の過剰な利用、気候変動、汚染、侵略的外来種を主要な要因として挙げている。したがって「気温上昇を抑えれば自然に関する政策は全部不要になる」とも、「動物の保護区だけ作れば十分だ」ともいえない。環境省に相当する行政機関だけでなく、農業、漁業、森林、都市開発、財政、企業の活動にも関係してくる。
たとえば河川の流域に湿地が残れば、一部の生物のすみかになるだけでなく、水の流れや土地の利用にも関わる。農地を増やす選択には食料生産の目的がある一方、生態系への影響も生じる。現実の政策では、それらの利益と負担をどのように把握し、被害を避け、利用を管理するかが問われる。国際的な目標が自然保護の専用施設だけでなく社会全体の行動に言及する理由は、この多面的な関係にある。 [1]
2022年の合意で何が決められたか
今回の進捗点検の土台は、2022年12月のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework、GBF)である。条約事務局が公開した合意文書は、2050年に向けた四つの長期目標と、2030年までの23の行動目標を示す。名前を知らない読者にとって重要なのは、この枠組みが「世界は自然を守るべきだ」という抽象的な宣言だけでなく、期限を付けて具体的な行動を求める構成になっていることだ。
この国際目標には、すべての国や地域に同じ法律が自動的に施行されるという意味はない。目標を達成するため、締約国は国内の政策や計画を整え、進捗を報告することが想定される。国際的な枠組みの文言と、ある地域で事業者に適用される個別の国内規則は区別しなければならない。たとえば国際的な数値目標を読んだだけでは、特定の土地の利用が明日から禁止されると結論できない。各国の制度、対象地域、所有や利用の権利などを別に確かめる必要がある。
また、2050年の長期像と2030年の実施目標を同じ締切にしてはいけない。2026年の会議では、2030年までにどの程度行動を加速させるかという短い時間軸が特に重要になる。2022年に枠組みを採択したことは出発点であり、2026年に国別の実施がどこまで進んだかを再び確かめることに、今回の会議の独立した意味がある。 [3]
『陸と海の30%』をどう理解するか
GBFの目標3は、2030年までに陸域・内陸水域、沿岸・海域について、それぞれ重要な場所を含む少なくとも30%を効果的に保全・管理するという趣旨を掲げる。これは一般に「30 by 30」と呼ばれることがある。しかし原文の目標は、単に世界の地図上で一定の面積を塗ればよいというものではない。生態系の代表性、地域間のつながり、公平な管理、保護区以外でも実効性のある地域に基づく保全、先住民・地域共同体の権利の尊重なども明記されている。
同じ面積であっても、その場所にどんな生物や生態系があるか、外からの圧力を防げる管理があるかで意味は異なる。人が立ち入れない区域を一方的に増やせば、土地で暮らす人の権利や生活と衝突する可能性もある。国際目標は、先住民・地域共同体の伝統的な領域を認め、権利を尊重する条件に触れている。したがって「30%なら残り70%は無条件で壊してよい」「人が一切使えない場所を30%つくる」といった読み方は、目標文書の内容を正確に表さない。
また、ある国の保護区の面積が増えたことと、その国の生物多様性の損失が止まったことも同じ指標ではない。保護区がどのように管理され、森林の質や海の生態系がどう変化しているかの情報がなければ、効果は分からない。2026年10月15日の条約事務局資料は、目標3について国別の誓約を集めても世界全体として必要な水準には大きく届いていないと説明する。個々の保護区の設置件数と世界目標の達成度を、無条件に同じものとして扱うべきでない。 [1][3]
『ほぼ90%が目標を設定』なのになぜ不足するのか
10月15日公表の条約事務局の資料によると、生物多様性条約の196の締約国・地域等のうち、約90%が国別の生物多様性目標を設定し、約60%が国家生物多様性戦略・行動計画を策定し、70%超が国別報告書を提出した。ここでの各割合は、国際的枠組みに対する手続き・提出物の整備状況を表す指標であり、同じ意味ではない。目標を書いたことと、戦略を策定したこと、現場で自然の状態が改善したことは別だ。
さらに同資料は、締約国が進捗を評価した国別目標のうち、順調に進んでいるものは半分に満たないと説明した。この『半分に満たない』の分母は、評価対象となった国別目標であって、『半数以上の国が対策を一切していない』という意味ではない。また、評価の対象外だった目標や、評価がまだできない目標まで無条件に失敗とみなすこともできない。数字の主体と分母を明記するだけで、このニュースの見え方は変わる。
なぜ目標があっても実施が遅れるのだろうか。計画を立てても、地域での具体的な土地利用や事業の見直しには法律、資金、人的な能力、利害関係者との調整が必要になる。条約事務局は、資金や実施のための手段、政府全体・社会全体での取組、データ・知識の不足を遅れの要因として指摘した。目標の提出は制度づくりの一部だが、農業やインフラへの予算配分、企業活動、実際の現場管理が変わらなければ、自然への圧力が十分には減らない。この過程を省いて、目標に賛成した国数だけで成果を測ることはできない。 [1]
補助金や企業活動が自然保護の会議に登場する理由
GBFの目標18は、生物多様性にとって有害な奨励措置・補助金を見直すことを求め、2030年までに少なくとも年間5000億米ドルの規模で有害な措置を削減するという目標を含む。これは、あらゆる国が同じ年度に同じ補助金を廃止することが決まったという意味ではない。国内の支援制度には食料、雇用、エネルギー、地域の生活を守る目的もあり、どの制度のどの部分が自然に悪影響を与えるかを具体的に検討する必要がある。自然を守る目的と人々の生活への配慮を同時に考える場面がある。
たとえば、海で魚を取り続けるための支援制度が、魚の数の回復を妨げるような漁獲を促してしまう場合、補助金の設計を見直す理由になりうる。しかし、すべての漁業支援が同じ結果をもたらすと決めつけてはいけない。対象となる資源、漁法、管理の仕組み、支援を受ける人々の状況によって効果は異なる。補助金の削減額という資金の数字だけでは、生物多様性の回復量を直接測ることはできない。
2026年の国連報告は、国別目標に前向きな奨励措置の記述があっても、有害な補助金の削減にまで踏み込んだ約束は相対的に少ないと指摘した。理由の一つとして、対象が環境行政だけでなく財政・産業政策と結び付き、変更に利害調整を要するという制度上の難しさが考えられる。ただし、特定の国がその理由で目標に反対したと断言するには、その国の公式発言や制度資料が必要だ。世界報告の一般的な評価を個別国の政治的動機の証明に転用してはいけない。 [1][3]
生物多様性の資金を『出す』『使う』『効果が出る』に分ける
GBFの目標19は、生物多様性のための資金を2030年までに年間2000億米ドル以上へ動員するという目標などを定める。その中には、先進国などから開発途上国向けの国際資金について、2025年までに年間200億米ドル以上、2030年までに年間300億米ドル以上という段階的な水準も記載されている。これらをすべて別々に足して「年間2500億ドル」などと書いてはいけない。目標19には資金の総額と、その内側で確認する特定の資金の流れが含まれるため、文書の構造を確認する必要がある。
資金には、政府予算、民間の投資、国際的な資金協力などがあるが、金額の公表だけで保護が達成されたことにはならない。拠出すると発表した額、実際に支払われた額、事業が契約され実行された額、自然の状態に現れた効果はそれぞれ異なる。ある国が資金の計画を打ち出しても、現地の管理能力や地域住民との合意形成が不足すれば実際の整備に時間がかかる。逆に民間企業の活動が規制や市場の条件を変えて自然への負担を減らす場合、政府の支出だけを見ていても取組の全体像は捉えられない。
10月15日の条約事務局資料は、資金不足と実施に必要な能力の不足を課題として挙げるが、そこに示された目標の数字は達成すべき基準であり、2026年に確定した実際の拠出総額そのものではない。気候資金の別の国際会議や、自然に悪影響を与える全世界の民間投資などの数字を無条件に横に並べて不足額を計算することも危険だ。何のための資金か、対象となる期間、含む国・資金源、流れと残高をそろえなければ正しい比較にはならない。 [1][3]
先住民・地域共同体の役割をなぜ重視するのか
生物多様性を守る土地や海には、長年そこで生活してきた人々がいる。昆明・モントリオール枠組みは、自然保護の管理で先住民や地域共同体の権利、土地に関する関係、伝統的な知識を尊重することに触れる。条約事務局の10月15日の資料も、これらの共同体の知識と管理の取組が、生態系を守るために重要だと説明する。保護の対象となる場所を地図上の空白地として扱い、そこに暮らす人の権利を考慮しない政策では、持続可能な管理の条件が整わない可能性がある。
たとえば森林を守る計画が、地域の住民が従来行ってきた資源の利用と衝突した場合、どの利用が持続可能で、どの活動が生態系に負担を与えるかを具体的に調べる必要がある。住民の参加方法や権利の保障が不十分なら、規則を設けても長く維持できないことがある。反対に、伝統的な方法なら必ずすべての環境問題を解決できると一般化することもできない。地域の知識と科学的な観測、行政の管理、必要な資金をどう組み合わせるかが問われる。
こうした点は、読者が「保護区を増やした」というニュースを評価する際に重要になる。数だけでなく、管理の実効性、地域の人々への影響、公平な意思決定があるかを確認することで、形式上の保護と実際の自然保護を区別できる。 [1][3]
何が報告された事実で、何がこれからの会議の判断か
2026年10月18日現在、国連の条約事務局からは、各国の目標設定状況や世界の進捗についての報告が公表されている。しかし、生物多様性COP17は翌19日から30日まで開催予定であり、会期中にどのような決定が採択されるかをこの記事で断定することはできない。参加国が協議する論点として、国際目標の実施を加速させる方法、資金・能力の不足を補う方法、報告や点検の仕組みがある。これらは会議前の公式資料が示す方向であって、最終文書の確定した内容とは異なる。
COP17が行う「初めての世界全体の進捗点検」も、すべての国や事業に合格・不合格の一つの点数を付ける作業と同じではない。国別報告、国家戦略、科学的な評価などを突き合わせ、世界として目標へ近づいているか、どこが遅れ、何を変える必要があるかを検討する作業だ。条約事務局の報告の紹介ページには、23の目標すべてについて進捗と障害を整理するという説明がある。発表された報告を読む段階と、締約国が会議でその結果を扱う段階を分ける必要がある。
ニュースで「COP17で合意した」「COP17が警告した」という見出しを見る場合は、何の機関が、何月何日に、報告を公表したのか、あるいは締約国会議として正式に決定したのかを確認したい。10月15日付は条約事務局の報道資料であり、10月19日以降の採択決議ではない。条約事務局の報道資料自身にも、報道向けの説明であって正式な会議文書ではない旨が書かれている。資料の権威を正しく理解することは、その内容を疑うためではなく、どの種類の事実を裏付けるかを明確にするためだ。 [1][2]
関連ニュースと混同しやすい『目標』と『結果』
気候変動会議COP31も環境を扱うが、温室効果ガスの排出や気候資金に関する交渉が中心だ。生物多様性COP17は、土地・海の生態系、種の保全、持続可能な利用、自然に悪影響を与える奨励措置などを主な対象とする。気候変動が自然に影響するため両者は協力し得るものの、一方の会議の資金目標や決定をもう一方の会議の結果として報じることはできない。排出削減や気候被害への備えと、生息地・種・遺伝子の多様性の状態は、それぞれ対応する指標で点検する必要がある。
また、国際目標の達成度を測るには、何が対象なのかに注意する。保護される面積の割合、絶滅のおそれのある種の状態、国別計画の提出数、補助金の見直し額、国際資金の拠出額は別々の指標である。異なる数字が同じ国際報告に並んでも、全部が同じ母集団を測っているわけではない。進捗が遅れているからこそ、どの目標のどの段階が不足しているかを整理する必要がある。
報告では企業や市民社会、自治体などからおよそ5000件の取組の誓約が登録されたと説明されている。これも世界の自然を守る事業が5000件完了したという意味ではない。登録された誓約は行動の意志を示すが、実施状況や成果の確定には追加の観測が必要だ。「目標を立てた」「資金を約束した」「自然が回復した」という異なる動詞を区別すると、国際会議のニュースを過度に楽観的にも悲観的にも読まずに済む。 [1][3]
結論|会議は『約束の採点』ではなく、実行への不足を埋める節目
2026年の生物多様性COP17は、2022年に決めた世界的な23の目標について、世界全体としてどこまで行動に移せたかを初めて大きく点検する節目である。10月15日の国連報告は、各国の目標づくりは進んでいる一方、評価された国別目標の半分以上が順調とはいえず、資金や制度、社会全体の対応に不足が残ると示した。これは制度づくりの進展を否定するものではなく、その先の実行と成果が必要だという指摘である。
COP17の決定は本稿執筆時点ではまだ行われていない。今後の報道では、①会議の正式決定か事前報告か、②数字の分母が締約国か目標か資金か、③計画・実施・成果のどの段階か、④土地の保全と地域の権利をどう両立させるか、⑤不足する資金・能力を補う方法が具体的かを確かめたい。『30%』という一つの数字の達成を願うだけでなく、何を守り、誰が管理し、どう確かめるのかを問うことが、生物多様性ニュースを読む出発点になる。 [1][2]
SOURCES & CONTEXT
出典・一次資料
- 生物多様性条約事務局, “UN Report Finds Growing Global Commitment to Biodiversity Goals, Highlights Urgent Need to Accelerate Action Through 2030”, 2026年10月15日報道資料、1–4頁(報道資料は正式な締約国決定文書ではない)。
- 生物多様性条約事務局, “State of Biodiversity Action: The Global Report on collective progress”, ページ表示2026年9月24日。内容概要・23目標の世界評価・COP17への接続。
- CBD締約国会議決定15/4(CBD/COP/DEC/15/4、2022年12月19日付)、附属書の4長期目標・23行動目標、特に目標3・18・19。掲載ページの旧L.25案と区別して確認
公的文書、国連資料、選挙機関などの一次資料を優先します。政府資料はその政府の立場を示すこともあり、出典があることだけで中立とみなさず、事実と解釈を分けて伝えます。