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世界・デジタル決済 · ドル連動と償還のリスク

ステーブルコインは価格が下がらない?1ドルとの連動が崩れる仕組み

ステーブルコインはなぜ1ドルを下回るのでしょうか。市場の売買価格と発行者への償還、準備資産と流動性、利用者の権利を分け、架空の計算で価格と受取額が変わる仕組みを説明します。

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事実、各国の主張、編集部の解説を区別して紹介します。記事の更新日は資料確認日です。速報や現在の戦況・選挙予測を保証するものではありません。

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1ドルへの連動は、いつでも1ドルで売れる保証とは違う

ニュースや金融サービスの説明に「1枚が1ドルに連動するステーブルコイン」とあると、1ドル札や銀行預金と同じように安定している印象を受ける。しかし「一定の価値を保つよう設計されている」と「いつでも必ず同じ金額で換金できる」は違う。発行者の保有資産、償還する権利、取引市場の流動性、利用者の不安が重なると、市場価格が目標価格から離れることがある。

重要なのは、名前に「ステーブル(安定)」と付いていることではない。誰が、どの裏付け資産を持ち、誰に、どの条件で法定通貨への償還を約束しているかだ。この記事ではドル建ての法定通貨連動型を中心に、価格のずれが起こる仕組み、実際に数字を見る方法、法律や制度で確認すべき点を整理する。特定の暗号資産の購入・保有は勧めない。

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「1ドルで買う」と「市場で1ドルで売れる」は違う

ステーブルコインは、一定の参照資産の価値を維持するよう設計されたデジタル資産の総称として使われる。米ドルなどの法定通貨を参照するもののほか、別の資産を裏付けるものやアルゴリズムによる安定化をうたうものなど仕組みは一つではない。したがって、ある種類の発行・償還条件を全製品に当てはめることはできない。

ドル建ての資産裏付け型では、発行者が一定の条件で1枚を1ドル相当と交換する枠組みを設ける場合がある。だが利用者が暗号資産交換所などで売買するときの価格は、市場の売り手と買い手によって決まる。米国証券取引委員会(SEC)企業金融部門の2025年4月4日のスタッフ声明も、一定の条件の「Covered Stablecoins」について、二次市場の価格は発行者の償還価格から変動し得ると説明している。この声明はSEC委員会の規則や決定ではなく、法的効力を持たず、法律を改正するものでもない。市場と償還の仕組みを読む資料として使い、現在の米国法全体や全商品への結論へ広げない。[1]

架空の例で考えよう。発行者に直接1枚を1ドルで償還できる資格を持つ事業者がいて、市場では一時的に0.99ドルで取引されているとする。その事業者が0.99ドルで購入して発行者へ1ドルで償還できれば、手数料や時間のコストを無視すると、1枚につき0.01ドルの差が生まれる。10,000枚なら100ドルだ。この裁定取引により市場価格が目標値に近づく可能性があるが、資格、償還受付時間、費用、取引停止、裏付けへの信用などの制限があれば必ず成立するとは限らない。

さらに、一般の個人が発行者へ直接償還を請求できるかは製品の約款や適用法による。直接の償還資格がない人は市場で他の利用者へ売るしかないかもしれない。画面に「1ドル連動」と表示されていても、自分がどの窓口でいくら受け取れるのかは別の問いなのだ。

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何を裏付けとして持っているのか

現金や銀行預金、短期国債などを裏付けにするタイプでは、発行者の保有資産を通じて償還資金を確保する。準備資産が十分にあることは大切だが、保有資産の総額が負債の額と等しいだけで安心できるわけではない。大量の利用者が同時に償還を求めたとき、すぐに現金化できるかという流動性の問題がある。

国際決済銀行(BIS)が公表した研究論文は、ステーブルコインの裏付け資産を支える仕組みがマネーマーケットファンドに似た流動性リスクを持ち得ると指摘している[2]。国債などは平常時に取引されていても、ストレス時に大量売却が集中すると、想定より不利な価格でしか売れない場合がある。資産があることと、直ちに同額の現金を用意できることは違う。この資金繰りの考え方は、別記事銀行は黒字でも破綻する?[8]でも通常の銀行について解説しているが、ステーブルコインの保有者の権利と銀行預金の法的性質は同じとは限らない。

例えば発行済み100万枚を各1ドルで償還する仕組みを考え、発行者が合計100万ドル相当の資産を持つと仮定する。うち20万ドルが現金、残り80万ドルが短期証券だった場合、平常時の帳簿上の総額は一致している。しかし一斉に50万枚の償還請求が来れば、現金だけでは30万ドル不足し、証券の売却や別の資金調達が必要になる。この数字は架空で、市場全体の準備比率を示すものではない。

もし証券を急いで売った結果、想定価格より低い代金しか得られなければ、償還に必要な資産が減少する。さらに資産への不安が新たな償還請求を呼ぶと、流動性の負担が増える。金融安定理事会(FSB)は、こうした仕組みを踏まえ、透明な準備状況、償還の権利、安定化制度、健全性要件などを国際的な勧告に盛り込んでいる[3]。勧告の存在は、すべての発行体が世界中で同じ水準を満たしているという証拠ではない。

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大量に売られると何が起こる?

価格が1ドルを下回ることは「ペッグ(目標価格との連動)の乖離」や「デペッグ」と呼ばれる場合がある。乖離の原因には、発行者の資産不足への疑いだけでなく、取引所の一時的な流動性不足、償還の遅れ、特定の取引経路へのアクセス障害などがあり得る。観測された価格差だけで原因を一つに断定できない。

平常時には、一定の裁定取引が1ドル近辺へ価格を戻す力として働き得る。しかし市場全体で「発行者は十分なドルを持っていないのでは」と疑われれば、売却・償還の希望者が増えるかもしれない。売り注文が集中した取引所の価格は一時的に大きく下がる場合があり、その価格が別の取引所でも同じとは限らない。単一の画面の最安値を全世界の償還価値として扱わないことが大切だ。

BIS公表の別の研究論文では、準備資産についての情報が市場参加者の判断に影響し、透明性が常に同じ方向の効果を持つわけではない可能性をモデルと事例で検討している[4]。質の良い資産だという信頼があると透明性は安心材料になり得るが、逆の疑いが強いと情報をきっかけに取り付け的な売りが生じる可能性もある。これは研究上の分析であり、個々の製品が今後デペッグする確率を示したものではない。

重要なのは、投資家が価格を信じているだけで連動が維持されるわけではないことだ。償還制度が現実に機能し、十分で流動性の高い準備資産が利用可能で、取引や決済の仕組みが動いている必要がある。もし発行者の運営が停止し、利用者が持つ法律上の権利や資産保全が不明確なら、額面上の「1枚=1ドル」は期待にすぎなくなる。

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「裏付けあり」の言葉をどこまで信じるべきか

公式説明に「全額裏付け」と書かれていても、その言葉が意味する範囲を確認する必要がある。どの時点の資産評価か、第三者の監査や保証はどう行われるか、資産は発行体から法的に分離して保管されているか、誰が償還を請求できるか。たとえば定期的な残高の証明と、財務諸表全体に対する監査は同じではない。

FSBの2023年最終勧告では、利用者が仕組みを理解するための開示、償還請求権、管理体制、ストレス時の運営・再建などが重視されている[3]。この勧告は各国当局向けの国際的な枠組みであり、個人向けの保証証書ではない。実際に法的効力を持つ条文、適用される監督制度、製品の利用規約を合わせて確認しよう。

分散型の仕組みを用いるものも、運営が分散していることと損失を負担しないことは違う。担保となる暗号資産そのものが大きく値下がりすれば、過剰な担保を積んでいても損失が起こり得る。アルゴリズムで発行枚数を増減させるタイプでは、価格の安定が市場参加者の行動や別のトークンの価値に大きく依存する場合がある。発行者が「安定を目指す」と説明していることは、どの局面でも維持できることの検証ではない。

特に損失が起きたときの優先順位は重要だ。利用者は発行体の準備資産への直接の請求権を持つのか、発行者に対する一般的な債権だけなのか、取引所という別の事業者を介しているのか。取引所に預けた場合、発行者の信用リスクに加え、交換所の管理・サイバー攻撃・出金停止などのリスクもある。自分が誰にどんな請求をできるかを読み取ることが、広告文句を読むより実用的だ。

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日本の「電子決済手段」は、世界の全ステーブルコインと同じ?

日本では、法定通貨の価値と連動する一定の仕組みについて、資金決済法などに基づく「電子決済手段」に関する制度が設けられている。金融庁は2023年6月1日から関連する仲介等の登録制度が始まったことを案内している。さらに2026年6月1日から、登録業者の委託を受けて売買・交換の媒介を業として行う「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の登録制度が始まったと案内している。発行者、取扱業者、媒介する業者は同じ役割ではない。[5]ただし、世界にあるあらゆる「ステーブルコイン」と呼ばれる商品が、この日本法の同じ区分に入るわけではない。

商品の法律上の区分、発行主体、管理者、仲介会社が登録対象かどうか、国外サービスの利用で何が保護されるかは、製品と取引の実態による。国内のある登録制度が存在するという事実から、海外の無登録商品や別のトークンに同じ保護があるとは推定できない。制度の適用判断は金融庁の現行案内、登録情報、適用法の正確な条文を参照する必要がある。

海外ではFSBの勧告を踏まえた制度整備が進む一方、国や地域ごとの導入状況には差がある。FSBは2025年の実施状況調査で、国際的な枠組みの適用に進展がある一方、法域間で重要な不一致や未実施の部分が残ると指摘している[6]。これは2025年8月時点の情報を用いたレビューであり、2026年10月のすべての国の実施状況を調べ直した結果ではない。だから「国際的に規制されている」という一般論だけで、個別の取引に適用される保護の内容を決めてはいけない。

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ドルと連動していても、日本円での価値は変わる

ドル建てで1枚=1ドルの価格が維持されても、日本円に換算した価値は米ドルと円の為替相場によって変わる。ここはドル建て価格の安定と日本人が感じる価値の安定を分ける必要がある。たとえば架空の為替レートが1ドル140円から150円へ動いた場合、1ドル連動の1枚の円換算額は140円から150円になる。差は10円、円換算額の変化率は10÷140×100=約7.14%だ。

この計算は、コインのドル価格が変わらず、手数料・為替スプレッド・税金がないと仮定する。実際には売買時の交換コストなどが発生する可能性があり、受取れる円の金額は単純な掛け算とは限らない。「米ドルの価格が安定」という説明から「円での購買力も変わらない」と飛躍しないことが大切だ。

さらに、米ドルそのものの購買力も物価の変化によって動く。1ドルの額面に連動することは、商品やサービスの価格変動から資産を守る保証でもない。短期間の決済、長期の貯蓄、国境を越える送金で重視すべき条件は違うため、利用目的に合わせて比較しよう。決済の利便性が高いという評価と、元本に損失が生じないという評価は別の問題である。

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価格が一時的に戻っても、損失が消えたとは限らない

画面に表示された価格が0.98ドルから1.00ドルへ回復したというニュースを見ても、すべての保有者が無傷だったとは言えない。0.98ドルで売った人には売買による損失が残るし、取引が停止して必要な時に交換できなかった人もいるかもしれない。逆に価格が0.98ドルへ一瞬下がったとしても、その価格で実際に売買した人が少なければ、全発行枚数に対して同じ割合の現金損失が発生したと計算することはできない。

架空の例では、1万枚を各1ドルで取得した人が、市場価格0.98ドルで全部売却すれば受取額は9,800ドルで、差額は200ドルとなる。計算式は10,000×(1.00-0.98)=200ドル。これは手数料・税金・価格の滑りを除いた単純計算だ。一方、同じ1万枚を保有し続けた人が後に1ドルで交換できるかどうかは、将来の取引市場や償還の可否による。値戻りの結果を事前に保証することはできない。

ここには三種類の確認事項がある。第一は価格リスクで、目標価格と売買できる価格の差。第二は信用・流動性リスクで、発行者や準備資産が償還要求へ応じられるか。第三は利用・保管のリスクで、取引所やウォレットの不具合、送金先の誤指定、秘密鍵管理などによって資産へアクセスできなくなる可能性だ。ドル建て価格が安定して見えることは、残る二つが存在しない証拠にならない。

金融商品を紹介する投稿が「過去の価格がほぼ1ドルだった」と示していても、それはその期間の観測でしかない。期間が短いのか、危機の局面を含むのか、どの市場の価格を用いたのかが分からなければ、安定性を十分に評価できない。過去の数字と将来の保証を分けることが、金融ニュースを読む基本になる。

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何を確認すれば「安定」の意味を判断できる?

第一に、参照先が米ドルなどの法定通貨なのか、別の暗号資産や商品なのかを確認する。第二に、償還を求められる主体と条件を読む。発行者へ直接交換できるのは誰か、最低数量や手数料はあるか、停止・遅延条件は何か。第三に、準備資産の種類、評価日、監査や開示方法を調べる。第四に、使う取引所での売買価格と発行者の償還価格が同じものではないと理解する。

第五に、発行者の所在、適用される監督制度、破綻した場合の利用者の権利、第三者への保管・仲介リスクも読む。説明が不足している場合には「公開されていない」「確認できない」と判断し、事実が分かっているかのように補わない。製品の名前や一時的な価格の安定だけでは、これらの条件を代替できない。

国際通貨基金(IMF)は2026年8月の講演で、国際送金等の潜在的な便益と同時に、新興国における通貨代替や資金流出、制度上の課題を議論している[7]。これはIMFの講演者による政策分析であり、個別商品への投資判断でも、特定の発行体の保証でもない。国境を越える決済が便利になる可能性と、金融システム上の負担は両立し得る。

結論として、ステーブルコインの価値は「ドルという名前に結びつけた」だけでは守られない。発行者の資産の質と換金のしやすさ、実効性のある償還権、十分な開示、ストレス時に機能する運営と規制によって安定性は変わる。さらに円建ての利用者には為替リスクも残る。1ドル連動という説明を見たら、自分に1ドルでの償還を請求する権利があるのかから確認してほしい。それが、名目の安定と実際のリスクを見分ける最初の問いになる。

SOURCES & CONTEXT

出典・一次資料

  1. SEC Division of Corporation Finance「Statement on Stablecoins」(2025年4月4日)、Covered Stablecoins・二次市場・脚注2。法的効力のない部門スタッフ見解(2026年10月16日確認)
  2. BIS Working Paper 1219「Stablecoins, money market funds and monetary policy」(2024年10月17日)、Focus。。HTML掲載のFocus・Findingsのみ、PDF全文は対象外。著者見解(2026年10月16日確認)
  3. 金融安定理事会FSB「High-level Recommendations for the Regulation, Supervision and Oversight of Global Stablecoin Arrangements」(2023年7月17日)、勧告8・9。(2026年10月16日確認)
  4. BIS Working Paper 1164「Public information and stablecoin runs」(2024年1月29日)、Findings / Abstract。。HTML掲載のFindings・Abstractのみ、著者見解(2026年10月16日確認)
  5. 金融庁「暗号資産・電子決済手段関係」、2023年・2026年の登録制度。(2026年10月16日確認)
  6. FSB「Thematic Review on FSB Global Regulatory Framework for Crypto-asset Activities」(2025年10月16日)、概要。(2026年10月16日確認)
  7. IMF Dan Katz「Stablecoins: Promise, Risks, and Policy Choices for Emerging Markets」(2026年8月7日)、Overview / policy discussion。(2026年10月16日確認)
  8. 世界の見取り図 編集部「銀行は黒字でも破綻する?」(公開関連記事)(2026年10月16日確認)

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